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農薬:栽培期間中不使用自然栽培米 南魚沼産コシヒカリ 10.18 【隠れた世界企業】常識に挑み悪条件を克服!都農ワイン(宮崎県都農町、ワイン製造販売)

都農ワイン
http://ja.wikipedia.org/wiki/都農ワイン

2010年3月11日(木)原隆(日経ビジネス記者)

 ワイン専用品種のブドウ栽培に不適とされる宮崎県都農町。常識とされる栽培方法に背を向け、土壌作りから始めた。世界が認めたワインを引っ提げて、最大市場の中国への進出を目論む。

 宮崎市から北に車を約1時間走らせたところに宮崎県都農町はある。人口1万2000人足らずの小さな町から生まれたワインが一躍脚光を浴びている。

 英国のワイン批評家たちが集まり、4年に1度発行する『The Sotheby’s Wine Encyclopedia(サザビー・ワイン百科)』。この年次報告書的な性格を持つ「Wine Report 2004」の世界のワイン100選に、突如、都農ワインの「キャンベル・アーリー ロゼ 2003」が選出された。2007年にも「スパークリングワイン キャンベル・アーリー」で100選に選ばれた。

 山が迫り出し、海までの距離が近いため、稲作に適さなかった都農町には語り継がれる人物がいる。「田んぼん木を植ゆる馬鹿がおるげな」。戦前、陰口を叩かれながらも梨の栽培に着手し、終戦直後にはブドウ栽培を始めた永友百二氏だ。都農町の名産「尾鈴ぶどう」の始祖に当たる。

 ブドウに対して特別のこだわりがある都農町。このブドウでワインを作り、町おこしにつなげられないか。こうして第3セクターとして立ち上がったのが有限会社都農ワインだ。都農町は最初に迎え入れる工場長としてブラジルでワイン作りにいそしんだ小畑暁氏に白羽の矢を立てた。

 この地に縁もゆかりもない、北海道旭川市生まれの小畑工場長こそ、小さな町のワインを世界的な評価を受けるまで育て上げた立役者だ。

厳しい条件下で常識は役立たず!

 都農ワイン所有のブドウ畑に足を一歩踏み入れると、まるで新雪のような軟らかい感触が全身に伝わってくる。

 「この土を作るところから都農ワインは始まったんだよ」!

 都農一帯は黒ボク土と呼ばれる火山灰土で覆われている。痩せた土地でこそよく育つと言われるブドウだが、シャルドネ、カベルネソービニヨン、シラーといったワイン専用品種のブドウ栽培に都農ワインは当初から苦しんだ。いわゆるブドウ栽培の常識が通用しない。ワインに必要な糖度も酸味も足りず、実がならないこともあ った。

それもそのはず、都農町の気候はワイン専用品種栽培の足を引っ張る悪条件がこれでもかと揃う。例えば、降水量。フランスのボルドーで年間800〜900mm、雨の多い日本の甲州地方でも1200mm程度。ワインの名醸地と呼ばれるところは降水量が少ない。

 対して、都農町の年間降水量は2400mm。時に3000mmを超える年もある。高温多湿地帯で、ブドウは病気に侵されやすい。

 これを回避する方法は至って簡単だ。ワイン専用品種を取り寄せ、都農ワインで醸造すればいい。

 ただ、そもそもこれは町おこしを目的に始まった事業。当初の目的が果たせないどころか、小畑氏自身の哲学にも反していた。ワインはその土地で収穫したブドウを使って作る地酒であるべき。このこだわりを貫くためには、そもそもの常識にとらわれていては実現不可能だ。こう判断した小畑氏は、町内で肥料店を経営する三輪 晋氏に出会い、土壌作りから着手する。

 もともと畜産の盛んな宮崎では、堆肥を農業にうまく使うという伝統が根づいていた。痩せた土壌を有機農法で肥沃にする。こうした土壌の肥沃化はブドウ栽培の常識からは外れている。というのも、肥沃化することは枝や葉の成長こそ促進すれど、実には影響しないと言われていたからだ。

 ふたを開けてみると、専用品種のブドウたちは強く、そして丈夫に育ち始める。畑に鶏糞をまくことで、バクテリアや根粒菌が土中に窒素成分を供給。これが直接植物には行かず、微生物のえさになり、より有効な成分が土壌全体に行き届くようになった。結果、保水性と排水性の両方を兼ね備えた理想の土が完成した。

 収穫量は増え、当初使っていた農薬を5分の1にまで減らすことに成功。糖度も酸味も備えた、ワイン作りに最適なブドウが出来上がった。

地元農家と衝突した「よそ者」!

 小畑氏は都農町で栽培されていた品種、キャンベル・アーリーのワイン作りにもこだわった。ただ、こちらも当初からうまくいったわけではない。

 もともと都農町で作られていたのは生食用のキャンベル・アーリーが主流。生食用のブドウは見た目がきれいでなければ売れない。裏を返せば、見た目さえ良ければいいということ。ワインは逆だ。形が悪かろうが、1粒1粒の糖度や酸味が最も重要になる。

 当初、ブドウ農家の間ではワインはブドウジュースと同じ。傷んで房が落ちたブドウでも十分作れるというイメージがあったという。そのため、小畑氏はこんなブドウ使えるかとブドウ農家に突き返したこともあったという。

 「よそ者」。都農町とゆかりのない小畑氏はブドウ農家と幾度となくぶつかった。「若さゆえのバランス感覚のなさが逆に良かったのかな」。

 そのうち地元のブドウ農家もワイン作りに真剣な小畑氏に感化されていった。小畑氏がそのことに気づいたきっかけは、農家が収穫したブドウを入れてワイナリーに運ぶための箱だ。

 「僕らの箱が福岡に行っちゃって、逆に違うワイナリーの箱がうちに来ちゃったことがあったんだ」。小畑氏はブドウ収穫用の箱を必ずぴかぴかに磨いてブドウ農家に返す。酢酸菌などが繁殖することを防ぐ目的もあるが、何よりきれいにすることでブドウ農家が気持ちよく収穫できると考えていたからだ。

「その間違って届いた箱は実に汚かった。それ以上に、中に入っていたブドウを見た時、農家の人たちは自分たちになんていいブドウを選別して入れてくれていたんだろうって。愛着を感じてくれているんだということに初めて気づいた」。地元のブドウ農家とワイナリー。世界的な評価は二人三脚で勝ち取ったものだと小畑氏は改 めて振り返る。

 現在、都農ワインは年間約21万本を出荷している。九州のワイナリーでは最も出荷が多いのだという。ワインブームに沸く中国を中心に、海外開拓にも乗り出している。2004年にはEC(電子商取引)サイトも開設。年間で約2万本をこのサイト経由で売る。日本中から注文がやってくるほか、ワイナリーに従事する人たちの視察も ひっきりなしだ。

将来は蒸留酒進出も!

 都農ワインは今後、ワインの生産だけにこだわらない。小畑氏は都農町の人たちが昔から愛着のあるキャンベル・アーリーに徹底的にこだわり、蒸留酒を作る夢も抱いているという。

 世界に認められるワインがなぜできたかとの問いに、小畑氏はこう答える。「ワイン作りに必要なのはうぬぼれと勘違い。どっかのボクサーと一緒だよ」。ほかのワイン醸造家たちと話を交わすと、意外にも自分たちが作るワインを世界一だと言い切る人が少ないという。

 高い目標とそれに立ち向かっていくモノ作りの姿勢こそ、世界が注目するワインを生み出した原動力なのかもしれない。

日経ビジネス 2010年3月8日号66ページより。

 

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